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中国はどう出る

 2008年に中国は巨額の財政出動を発表し、世界経済を救ったと称賛された。その後日談として、債務膨張に陥ってデレバレッジを進めざるを得なくなったが、当時は中国なしには世界は立ち直れなかった、というのが定説である。借金力は強い。そしていま一番強いのが資源力である。これにプーチンは憑りつかれ、バイデンは計算を間違えた。 ウクライナ・リスクは最悪シナリオに突入、両国は対話を始めたが、着地点が全くない協議であり、とても楽観できる情勢ではない。対話開始を材料にリスク・テイクなど、正常な感覚では有り得ない。仲介役が無ければ、ロシアの暴走は止められない。その力は欧米の金融政策にはない。抜け道は一杯あるからだ。中国はその重要な鍵を握っている。 欧米諸国の後ろでトロトロと付いていく日本は仲介力ゼロだが、中国にはロシアに「ノー」と言える力がある。あの習近平が「強引な侵略はあきませんで」と言えるかどうかは解らないが、少なくともブレーキを掛けるくらいは出来るだろう。欧米首脳の無能さに呆れかえっている筆者には、それくらいしか想像できません。何とかしてよ、プーさん。

金持ちロシア

 これはロシアがお金持ち、という意味ではなく「ゴールド持ち」ということである。確かに外貨準備は6,300億ドルと多いが、外貨準備は貯蓄ではない。言いたかったのは、その中身の話であって、内訳としてのゴールド保有高は1323億ドルと21%を占めている。こんなにシェアの高い国は珍しい。それだけ「危機への準備」をしていたということだ。 ロシアの外貨準備は、従ってユーロとゴールドでほぼ半分である。ドルは21%程度であり、またその所在地シェアは7%に満たない水準である。米国とロシアの経済・金融関係は薄い。SWIFT排除で困るのも欧州である。制裁、制裁と威勢は良いのだが、実効性は限定的で、国際経済へのブーメラン効果も半端でない。米国のインフレも加速するだろう。バイデン支持率が下げ止まらないのも当然だわな。 ロシア経済が無傷だというつもりはない。マイナス成長に逆戻りする可能性は高く、資本逃避も起きるかもしれないが、ロシア中銀は資本管理を強めることだろう。中国との通貨スワップ協定を再開する可能性もある。この辺は中国の判断次第である。「安定」を重視する習近平が欧米に忖度するような場面はあるだろうか。ここは結構重要ですよねえ。面白がっている場合じゃないんだけど。

小麦価格が上がる

 ロシアのウクライナ侵攻で、原油もガスもアルミもパラジウムも鉄も銅も上がる。そして食い物の値段も上がる。年間輸出シェアが30%近いウクライナとロシアの小麦が、黒海から運搬されなくなりそうであるからだ。いま、アゾフ湾の主要港は閉鎖され、黒海周辺でも中型バルカー船が砲撃されて、事実上海運輸送が止まっている。キエフも大変だが、黒海も深刻だ。 ウクライナの小麦輸出はほぼ100%黒海経由である。ロシアも東の鉄道ルートはあるが、ほぼ黒海頼みである。日本政府の小麦買い付けも苦しくなる。4月の価格改定は昨年10月より厳しくなるかもしれない。ああ、パンも、ラーメンもうどんも、お好み焼きもどんどん値段が上がる。ケーキの好きな人も、出費はかさむでしょう。インフレですがな、やっぱり。 コロナ禍が終わらないうちに地政学が揺れて、エネルギーがヤバいことになって、食品も値上がりが加速する。中銀の皆さん、物価上昇目的が達成されて良かったですね、なんてことを言う人はあまり居ないだろう。エコノミストは「1970年代の再来は無い」と皆さん口を揃えて言っていたが、本当にそうですかね。ワタクシはだんだん自信が無くなってきましたわ。

SWIFT排除って

 バイデン大統領やジョンソン首相がSWIFTからのロシア排除とか騒いでいるが、英米にSWIFTの運営権がある訳ではない。あれはベルギーにある協同組合みたいなもので、ロシア人も運営委員会に入っている。2012年にイランが締め出されたが、あれは委員会の総意で決められたものだったと記憶している。それに、相手が排除されて困るのは支払い方である。 だからガス代払う必要があるドイツやイタリア、オーストリアなどが、英米に反抗しているのは当然だろう。決済できないとなればガスも入ってこない。理屈は簡単だ。それにSWIFTといっても、送金システムではなく情報システムである。いざとなれば取引情報くらいはテレックスでも出来る。まあコストや手間はかかるけどねえ。部分的排除って、何でしょうねえ。 いまSWIFTは金融核兵器とか言われているらしい。でも本当の核兵器と違って、国が単独で使用権利を持っている訳ではない。金融制裁と言っても、これだけ経済的に結びついているネットワーク社会では、限界がある。英米政権は、いまだに20世紀の冷戦の感覚でロシアと対峙しているような気がしてならない。時代遅れだよね。これは私自身への戒めでもあります。

買い戻し

 地政学リスクは、事態の最終局面に近づくにつれて薄まっていく。昨日の米国市場はそんな典型的な相場だったといえるかもしれない。ナスダックが最高値から20%下がった事も値頃感を生んだ、という見方もあろう。 大体、市場の地政学懸念とはこんなものだ。普段ならここで買い出動、と行きたいところだが、今回は金融引き締めというもっと恐ろしいハードルが聳え立っている。まあ売った分の2割くらいの買い戻しが妥当なとこだろう。 ウクライナの後処理もまだ見えてこない。プーチンは傀儡政権の樹立を画策するだろう。欧米制裁の効果もない。やりたい放題かもしれぬ。だが、それが吉と出るかは分からない。中国の支援が無ければ行き詰まるかも。それにしても欧米の外交の不味さは特筆モンだわな。

やっぱり円安か

 今年に入って何回か、地方の中小企業経営者向けのゼミで世界経済のアップデートと日本経済への影響度についてお話させてもらう機会があった。面白いのでは質疑応答で、先日のゼミでは、為替レートに関する質問が集中した。円安の継続性は信じてよいか、なぜ円高にならなくなったのか、もう円に未来はないのか、云々。  筆者は「円高エネルギーの消滅」を日米実質金利差との相関の薄れから帰納してみたのだが、意外に反応があったのである。その相関の希薄化の背景にあるのは、やはり日本の潜在成長率のゼロ化、生産性向上への取り組みの乏しさ、産業資本主義の成功体験の呪縛、といったところだろう。ドル円は来年130円かなア、と思ったりもする。  まあ地政学や日銀の「変心」のように円高になる要素もあるので、絶対円安だと決め打ちするつもりはないが、海外勢が円を買いたくなる気持ちは想像できない、というのが正直なところだ。貿易収支も赤字が定着してきた。エネルギーだけでなく医薬品も海外から買わないといけない国になっちまったんですよ。やっぱり円高にはならんわなあ。

頭の切り替え

 デフレやディス・インフレが死語になる時代はもう目の前に迫っている。否、もうその時代に入ってしまった、といっても良いだろう。米国と違って日本はまだインフレ時代とは言えないが、少なくとも幅広く値上げが続くことが当然の状況になりつつある。値上げできない時代も終わる。値上げできない企業は淘汰されていくことだろう。 流石に企業も賃上げしないと人材が流出しかねない状況になりつつある。生存を望む企業は賃上げせざるを得ない。政府に言われなくても自発的に賃上げを決断する企業は増えるだろう。デフレ時代に染み付いた「値上げも賃上げも投資もしない」企業は、社会的存在意義をとわれることになる。良い兆候ではないですか、これ。 地政学や利上げで企業マインドや消費マインドが冷え込むという指摘も間違ってはいないが、新時代は新時代なりの消費性向が生まれる。インフレ、テレワーク、脱炭素、デジタル化という急速な構造転換の下、新たなニーズを捉えられた人が勝ち。パイが縮小するところもあれば急拡大するところもある。それがインフレ時代への頭の切り替えどころですね。若い人たち、頑張れ。政治家や日銀なんか、あてにするでないよ。

妥協は悪い話ではない

 プーチン大統領の怒りは収まらない。NATO東方拡大に対して欧米がゼロ回答を続けているからだ。ロシア嫌いでプーチン大統領をも信用していないバイデン大統領は、妥協など一切しない方針である。お前が悪い、の一点張りである。確かにロシアは悪い。でも悪さをするのは理由がある。単なる領土拡張主義ではない。本当にNATOが怖いのだ。 ロシアはナポレオンに踏みにじられ、ヒトラーに酷い目に遇った。二度あることは三度、それがNATOなのですよねえ。ウクライナがNATO加盟?冗談じゃないだろ、というのがロシアの本音でしょう、たぶん。米国にはそういう想像力がないのです。原爆落としても何にも感じない国なんだから。 妥協など米国のプライドが許さん、ということかもしれないが、キューバ危機の時もこっそりとトルコからミサイル撤去して妥協し、第三次世界大戦を回避したのです。妥協は必要。ましていま主導権を持っているのはプーチン大統領なんだから。その時点で欧米は戦略で負けている。この勝負、妥協しなければロシアの作戦勝ちだろうなア。

ミンスク合意

 ウクライナを巡る報道は、ロシアの侵攻、そして欧米の経済制裁という目先のリスクだけに焦点が当たる近視眼的な状況に陥っている。ロシアの侵攻は領土拡大主義というだけで、深掘りが無いのが実体だ。それを探るにはソ連崩壊まで遡る必要があるだろう。まず1994年のブダペスト協定があって、2015年のミンスク合意に至る過程が重要だ。 ウクライナのNATO加盟問題も、結局はソ連崩壊という劇的なドラマの残滓である。これを西側からの論理だけで描写するのは不適切でありかつ危険である。バイデン政権の外交はこうしたリスクを孕んでいるのは間違いない。欧州諸国はそれに気づきながらも、声高に米国に制御を働き掛けることが出来ない。哀れ、ヨーロッパ。 まあ筆者もロシア問題の専門家ではないので多くを語ることは出来ない。市場を見守る一人として、日本や米国のメディアに情報を依存することの危険性を感じているだけだ。そういえば、2012年のユーロ危機の際にも、米国メディアに振り回されて損したことを思い出す。情報収集は重要だが、その分析はさらに重要だ。まあ、言うは易し、ですがね。それにしても困ったもんだ。

2%のインフレ率

 金融にはマジックナンバーというのがある。さしたる根拠は無いのに、それが黄金律のように幅を利かせるタイプの数字である。現役時代、銀行に8%という自己資本比率がいきなり導入されて戸惑ったことがある。上司にこの数値の根拠はなんですか、と聞いても答えは得られなかった。そりゃそうだろう、日本勢を抑え込むために、欧米の連中が勝手に決めたんだから。 まあこの手の数字は至る所に転がっているので、皆さんも探してみて下さいな。発見しても何の意味もないですけどね。でも経済や金融の根幹を揺るがすものであれば、無視は出来ません。そう、中銀の「物価目標」。2%というマジックナンバーは、34年ほど前にインフレ抑制の為にNZ中銀が1-3%と適当に決めた数字の中間値であることは周知の通りである。 当時のNZのインフレ率は9%くらいでした。それを引き下げる為の目標だったので、現在のインタゲとは全く異なることもみんな知っている。でも新しい物価引き上げ目標が達成できないまま何年も経った後、昨年からその領域を超えてどんどんインフレになっている。中銀の物価目標ってなんだよ、と言いたくもなるわな。それがマジックナンバーの正体である。全く理論的ではない。

夢で逢えたら

 その昔、吉田美奈子がデビューLPで「夢で逢えたら」という大瀧詠一の歌を歌った。大学時代には夢のことなどあまり感じることはなかったが、ディーラー時代にはロイター画面が何度も夢に出てきて、冗談じゃないよ、と思った事がある。 夢に出てくる程、脳が浄化し切れて居なかったのだろう。社会人になってから時々、大学入試前の模擬試験で準備していない世界史や物理で零点を取るという悪夢に襲われた事もあった、夢は何かを暗示している事は既に周知の通りだ。 だが歳を取ってから、時々夢が仕事のヒントをくれるようになった。既に書いた原稿の修正を提案してくれる事もしばしばである。何を書くか困っていた原稿のテーマを思いついてくれる事もある。これならば、吉田美奈子の歌も聴いてて心地良い。

FTとBloomberg

 最近、Bloombergの記事を見る時間シェアが増えた。20代で英国でディーラーを始めたときは、80%くらいがFTであり、ReutersやTelerateをちらちら見る程度で、The Economistは高根の花であった。専らFTが主流で、週末にSunday Timesを読むくらいであった。Wall Streetは野暮な感じがして、殆ど読まなかった。月刊誌ではEuroMoneyが面白かった。Bloombergは影も形も無かった時代である。 あれから40年、いまもFTは読み続けているが圧倒的なシェアは急低下し、Bloombergが急上昇している。The Economistも比較的早く読めるようになった。仕事で参照する他の媒体の数も増えた。FTの時間シェアが落ちたのは、他の市場分析が充実してきたことを背景に、FTでなければ読めない、という内容が減っているからだろう。 FTの中にも良い記事がある。参考になる市場分析もある。だがFTだけ読んでいても、全体像は掴めるが、着目ポイントに欠けることがある。別に日経の子会社になったことが影響しているとは思えないが、それなりに人材流出はあるのかもしれない。老舗もサステイナビリティが問われている。銀行の悪口だけ書いてても、経済メディアは生き残れないのですよーん。  

プーチン再考

 数年前、ロシアに一週間ほど旅行で滞在した。私は結構ロシアが好きで、音楽だけでなく美術も嫌いではない。大抵の人はロシア文学にハマるらしいが、こちとら、もっぱら音と絵である。取り敢えず、エミルタージュ見ずに絵画を語る事なかれ、である。 それは兎も角、街に溢れるプーチングッズの多さには驚いた。宣伝目的みえみえだが、人気があるのは間違いない。最近は徹底的に嫌いな人も確かに増えてきたが、この強い人物像はやはりスラブ的英雄像に近いのだろう。 ウクライナに侵攻する、と米国は言う。昨年来、本当かなと首を傾げ続けてきた。今でもあれは脅しだと思っている。リスク管理の観点からは、市場的にはヘッジで原油と金を買うのが鉄則だ。だが深追いは禁物というムードも出始めた。そりゃそうだろう。プーチンは並の政治家ではないのですよ。

42年ぶり

 米国の消費者物価指数が40年ぶりの高水準になったことは、日本でも大々的に報じられた。前にメルマガにも書いたが、そんな1982年というのは筆者がロンドン勤務となった年である。ヒースロー空港から当時のH秘書課長に現地法人に連れていかれ、そのまま中華テーブルのようなディーリング・ルームに座らされた、ホテルでちょっと休憩、などという豪華な転勤ではなかったのである。 まあ当時の話は「我々は外資に負けなかった」という絶版の本に書いた通りであり、ここで繰り返す愚は避けるが、当時と現在を比べて、同じ物価動向だということは出来ない。年内は無理だろうが来年にはインフレ率は3%前後には低下するだろう。但し「景気後退」というオマケ付きのシナリオである。今年は何とか景気は持つだろうが、来年は怪しい。 因みに、個人的にも42年ぶりという記録が出た。体重である。なんと、昨年10月から始めた「夕食と朝食の感覚を16時間」という食事法に変えたら、三か月で2.5キロ落ちた。20代半ば以来の75キロ、という各国中銀より健康的な「目標達成」である。あとはその継続性だよねえ。サステナビリティ、が個人にも問われる時代であります。

ウクライナ

 ウクライナには行ったことが無いが、数年前にウクライナをよく知る人から政治経済状況を教えて貰ったことがある。東西を分かつドニエプル川が大きな境界のようなもので、西側と東側は全く違った国のようだ、と言っていた。ソ連崩壊の際にどさくさ紛れに一緒の国として独立したのが、今でも尾を引いているのだろう。せめて緩衝地帯を残すべきだったのだ。 「西側諸国の勝利」に湧いたソ連崩壊時は、そんな発想もなかったかもしれない。それがいま地政学リスクとして再浮上してきた。ロシアの強引な失地回復という見方にも一理あるが、スラブの歴史を無視した強硬な西側への組み入れ方針も行き過ぎの感がある。妥協こそが地政学の「クスリ」であるが、それが失敗すると「リスク」になる。 外野席が何を言おうと鍵を握るのはプーチン大統領唯一人であり、何が起こるのかは解らない。何かが起きれば株は下がり原油や穀物は上昇しする。債券にも買いが入るかもしれないが、FRBの利上げというハードルもある。有事のドル買いか、金買いか。え、有事の円買いでしょ、という人も居ようが、円買っても、すぐに下がりそうだよねえ。

住宅ローン

 都内のマンション価格が上昇し、新築も中古もバブル期を超える勢いだ、といった業界の人たちの話が漏れ聞こえてくる。実は筆者もその「都内マンション」の売買をした一人なので、その実態がよく見える。但し、その市況を牽引しているのはメディアに登場するような節税対策の高齢者だけではない。筆者を含め、幅広い層で実需が拡大しているのだ。 テレワークが一役買ったのは間違いないだろう。筆者が売りに出した物件を見に来た人は、全員が実需層であり、年齢は30代から60代までまちまちだった。不動産屋に話を聞くと、ほぼすべてが「全額住宅ローン」タイプであった。実需を住宅ローンが後押ししているのである。節税対策が価格高騰を招いているというのは、ほんの一側面に過ぎない。 筆者が1980年代にマンションを買ったときは頭金30%が必要条件だったが、いまそんな縛りは無い。一定の収入があれば1億円くらいは借りられる時代なのだ。60歳後半になった筆者でさえ80歳までの支払い期間で相当のおカネが借りられることも分かった。低金利の威力は凄まじい。だがその金融効果が不動産や株に限定されているのも、また事実なのであろう。

インフレその2

 米国のインフレに関しては、従来はFRBが重視するコアPCEデフレータを眺めているだけで十分だったが、1年ほど前から様々なモノの値上がりが顕著になってきたので、家計負担をチェックするために消費者物価指数も重要な指数となり、「食品やエネルギーを除く」というエコノミストが好きなコア指数という重要性は急低下した。当たり前ですがな。食品とエネルギーが家計の大半を占めるのだから。 そして消費者物価指数の内訳も重要になった。上昇が続く項目、横ばいの項目、鈍化する項目に分類する必要があるからだ。これは米商務省のHPで読める。ジャガイモからキャンディ、重油、そして散髪代までちゃんと教えてくれる。いやしくも市場関係者を名乗る人は、日経新聞の概要だけ読んでいてはだめなのです。 そしてもう一つ重要なのが「物価の粘着性」だ。これはアトランタ連銀の「Sticky Price CPI」でわかる。エネルギー価格などと違ってサービス業などは価格トレンドが粘着し易い。1月の数字を見ると、大幅に跳ね上がっているのが読み取れる。年内に物価沈静化というシナリオを描いている人は、この指数の意味を再確認しといた方が良いかもねえ。

インフレ

 昨年、JR東海の車内誌「ウェッジ」の8月号に、「高止まりする米国インフレ率、危機意識薄い米金融当局」という小論を書いた。もう半年以上前の話であるが、FRBの呑気さにやや呆れて、パエル議長らはリスク認識が足りないです、というニュアンスで書いたものだが、あまり反響は無かった。みんな、インフレなんて死語だと思っていたのでしょうねえ。 昨日発表された米国の1月消費者物価指数の上昇率は前年同月比7.5%。1982年2月以来の水準だそうな。米国は立派なインフレ国に戻った。物価上昇は一時的と言われ続けて、もう1年である。ほれほれ、予想が当たった、と威張る訳ではないが、欧州勢も含め、本当に最近の金融当局はボケているとしか思えない此の頃である。 これだけ金融緩和して物価が上がらなかったのだから、簡単に物価が上がる訳がない、という専門家一流のプライドもあったかもしれない。でもねえ、物流やエネルギーや畜産農業や不動産など、現場はみんな物価上昇に怯えていたのですよ。高層ビルの会議室にいても、物価動向はわかりません。さあ、次は日本。どうなりますか。

休日だらけの日本

明日が休日だということを忘れていた。金曜の仕事を今日やらねばならぬことに昨日の夕方気付いて大慌て。2週間前までは覚えていたのに、今週に入って忘れていたのだ。ボケが始まったのか、と悲しくなる一方で、日本は休みが多過ぎる、と罵りたくもなる。世界一でないにしても、日本の休日の多さは特筆ものだ。 英国で仕事していた頃、同僚の英人に「日本人は働きすぎとか言われるけど、なんでこんなに休みが多いんだ」と呆れられたことがある。英国では休日はほんの数日だ。「働き過ぎてるから休まないと体がもたないのだ」と訳の分からん説明をしたが、本心では彼と同じ気持ちであった。特に成長力の落ちている今では、なおさらである。いい加減に目を覚ました方がええよ。 休日を多くして消費を伸ばそう、なんていかにも役人の発想だ。休日を減らして働いて、創意工夫で生産性を上げて、追い上げる新興国に対抗して、先行する米国に何とか食らいついて、業績を上げて給与を増やさないと、誰も消費なんかしない。日本は休日なんか増やして余裕こいている場合ではないよねえ。

米国の長期金利

 ある講演会でのこと、米国の長期金利が2%台に乗ったら株は暴落しますか、との質問があった。株価と長期金利水準との相関については様々な研究があり、一言では答えられないが、筆者としては名目金利より実質金利の方が重要な指標ではないですかねえ、とやや曖昧にこたえざるを得なかった。ただ、米国の異様なマイナス実質金利がゼロに向かって動き出せば、当然株はリプライシング出ざるを得まい。 ただ、名目金利と無関係とも言い難い。世間では2%台必至との見方が主流だが、実体経済が強くてインフレにピーク感が見えないなら。3%くらいは想定しておくべきだと思っている。その過程では、はやり株価には強烈な逆風になるだろう。米国長期金利の読みは、40年この仕事をやっていても難しいが、方向感さえ間違えなければ生きていけるのがディーラーの世界だ。 ある人が米国での株価暴落と長期金利の関係をサマリーしていたので、受け売りで紹介しておこう。1987年のブラックマンデー、2000年のドットコムバブル崩壊、2008年のリーマンショックの三回における長期金利上昇平均は約200BPでした、とさ。今回、その最低水準は0.3%だったので、2.3%くらいが肝になるかも。飽くまで過去からの推論だが、参考にはしといた方が良いかもね。

新しくもない資本主義

 1990年代、迷走中だった日本経済にグローバル・スタンダード論争が起き、米国流の資本主義思考や金融資本傾斜に対する賛辞と批判が入り混じる展開になった。世論は専ら批判が主流で、新自由主義者の中には「転向」を余儀なくされた経済学者もいた。米銀で働いていた筆者にはよく意味が解らなかった。米国流のスタンダードには長所もあれば欠陥もあったからだ。  日本は、米国の資本主義を批判できるほど資本主義国ではないというのが筆者の考えであった。1000年の歴史を持つシステムをほんの150年前に輸入し、加工することも知らないで保全だけを考えていた日本に、論評など出来る筈もない、というのが今でも持論である。金融史の真実という本で描いた資本システム論には、そういう批判が込めてある(気づいた人は少なかったけどねえ)。 いままた「新しい資本主義」などという言葉が出てきた。先日、某首相の地元での講演でこきおろしたら嫌な顔をされた。大失敗であったが、噓をつくわけにもいかない。資本主義の本質を知らないで「新しい」も何もない。30年前のグローバル・スタンダード議論から、たいして進歩していないのが日本の経済論壇の実態ですね、たぶん。

遅い

 加齢が進むとせっかちになる、とも言われるが、生来せっかちであれば加齢に拠ってもっとせっかちになる可能性が高い。私の父も相当なせっかちであった。地元の方言では「キセリ」ともいう。気が急く、という意味である。兎も角、なんでも遅いのが嫌いで、早めに動かないとすぐ苛立つのである。悪いことに、この性癖をそのまま受け継いでしまった。 仕事柄、甘い金融政策や遅い経営改革などにケチをつけることが多いが、それも「キセリ」の為せる業であろう。だが最近のFRBやECB、或いは日本のワクチン対策、PCR検査体制、医療システム改善などのあまりのスローペースに苛立つのは、性格の問題だけではないような気がしている。本当に、遅いからだ。え?せっかちですか。 現役時代、判断や作業のスピードが求められる仕事に就いていたことも、この「せっかち」に拍車を掛けたかもしれない。それでも計算間違いによる失敗などがあまりなかったのは、単純計算が得意だったこともあるが、幸運でもあった。ただ最近では、このせっかちが自分でも自覚されるようになってきた。ちょと、拙いかもね。

オリンピック

 冬のオリンピックは面白い。自分が出来そうもない競技で溢れているからだ。スキーもスケートも凄い。夏のオリンピック競技は陸上でも水泳でも記録さえ無視すれば何とか参加出来そうだが、アイスホッケーやジャンプなど絶対に無理だ。 自分に出来ない事を出来る人は尊敬に値する。スポーツに限らず、音楽でも絵画でもそうだ。だから自分は文学にはあまり興味がないのかもしれない。文章ならエッセイから私小説まで、素人なりに書けそうな気がするからである。 それは尊大だ、傲慢だ、とのご批判もあろう。物書きでプロになるのは難しい。筆者もいろいろ書き散らしているが、それだけで食っている訳ではない。渋澤龍彦や松本隆のような才能はない。だが、距離感としては冬のオリンピックには敵わない。カーリングだって、全く無理だと思っております。

米株の乱痴気騒ぎ

 メタ(旧フェースブック)の時価総額が1日で2400億ドル吹っ飛んだと思えば、翌日にアマゾンの時価は2000億ドル急増するという、ド派手な相場に米国株は迷い込んでいる。乱高下という言葉では不十分だろう。こういうのは、乱痴気騒ぎと呼んであげよう。まともな市場でないことが良く解る。自分の精神は健全だと思う人は、こんな市場に付き合ってはいけませんね。 メタはともかく、アマゾンには驚いた。AWSは絶好調だが、売り上げ見通しは決して強気ではないし、株の評価益を好材料と見るのはどうかと思うし、プライムを値上げするのは短期的にはプラスだが、中期的にはインフレ押し上げ要因であり、株価にはプラスとは言い難いところもある。アマゾンに限らないが、値上げを良しとするのは必ずしも論理的ではない。 いま米国企業は値上げの嵐の中にある。日本でも粉もんや油もんは値上がりし、春にはカップヌードルからお茶漬け海苔まで値上げされる。企業のマージンは確保されるが、CPIが上がれば政策金利も市中金利も上がる。それは将来価値のディスカウント要因ですがな。悲観するな、景気は良くなるのだ、というご宣託も聞こえそうだが、物価に「良い上昇」なんて滅多にない、というのが筆者の持論であります。

ECBも白旗近し

 パウエル議長は昨年11月にインフレ認識を誤ったことを認めたが、先日はイエレン財務長官も「間違ってました」と誤判断を認めた。まだ認めていないのがラガルド総裁であるが、昨日の冒頭説明では物価リスク認識は上振れとして年内利上げの可能性を否定せず、春頃には白旗を上げざるを得ない状況となってきた。プライドが高いのは解るが、ちょっと遅いよねえ。 今思うに、4月頃に英中銀のチーフ・エコノミストでもあったハルデーン理事がもう利上げしないと拙いなあ、と言っていたのは正しい読みであった。筆者はこの変人の思考回路が好きだったので、そうかそうかと一人で頷いていたが、ベーリー総裁らは知らん顔であった。ちょっと判断は遅かったが、それでも昨年末に利上げしたのは、流石に英中銀である。えらい。 ECBは2011年に早期利上げに踏み切って失敗したことや、利上げすれば長期金利の低水準で隠れていたイタリアやギリシャの財政問題が表面化することで、躊躇していた印象が強い。まあ解らんでもないが、インフレ放置で困るのは家計である。国民の為に、早めに白旗を上げてあげましょう。日本もね。

旧フェイスブックへの三行半

 旧フェイスブック、メタの決算が少し哀れなことになっている。売上は増収だが伸び悩み、見通しも冴えない。利益は減益で、前日好業績を発表したアルファベットとは月とスッポン状態になっている。まあビジネスモデルが違うとはいえ、GAFAとか持て囃されていたことを考えれば、時代とともに市場認識も変わり始めたということだろう。 筆者がフェイスブックの利用を辞めたのは幾つか理由があるが、あの会社に信用を置けなくなった、というのも一因である。大企業や成長企業が内部告発されるのは稀なことではないが、この会社のCEOの問題提起に対する態度・対応は信用に値しないものである。テスラのCEOもどうかと思うが、ここはビジネス・モデルすら好きではないので、論外だ。  筆者は米国株にはいま悲観的だが、ハイテク株に失望している訳ではない。アマゾンもアップルも好きだし、グーグルやマイクロソフトも好きな会社である。だが、高齢になったせいかSNS関連には抵抗がある。人間は社会的動物だろうが、過剰に社会的になるとおかしくなる。筆者には自覚症状も出てきた。故に、最近少しアンチ・ソーシャルに傾いているのであります。

1月相場と通年相場

 Bloombergに教えて貰ったのだが、米国のS&P500は1月相場と通年相場の相関が極めて高いらしく、90%近い確率で同じ方向に動くのだという。生データを確認していないので、いい加減なことは言えないが、あるテレビの経済番組で誰かが同じような話をしていたので、多分そうなのだろう。だが件の誰かさんは、1月の相場が悪くても通年では上昇するケースも多い、とかコメントしていた。無茶苦茶な解説である。 テレビで自身の考えを主張するのは当然だが、データを捻じ曲げて解釈して我田引水、というのは無責任であり、一種の公害である。私自身はデータとともにアネクドータルな事情も重視しているが、データの取捨選択はするにしてもその解釈を都合の良いようにひん曲げるのはご法度であろう。どこかの役所が得意なデータの書き換えと同じ犯罪である。データは神聖なのだ。 因みにデータを駆使して書いたのが筆者のデビュー作「相場を科学する(ブルーバックス)」であった。多変量解析を幾つか使って相場予測するという若気の至りであったが、自分なりにデータに敬意を払った著作だと自負している。出版が1992年だから、あれからもう30年も経つのですねえ。もう今読んでも書いてあることが解るかどうか、自信はないなあ。